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8/6 仕事の仕方

私の仕事で最も特徴的なのは、自ら家づくりを行なうということです。本来の建築家は施工を行ないません。ましてやこのご時世、施工分離が声高に謳われている中で、それに抗うようにあえて現場に身を置いています。

 そこにいたるまでの経緯は単純ではありませんでした。従来のように設計し工務店に発注し監理するという仕方から分離発注形式を経て、6年前に建設業法の許可を取得し現在に至りました。一貫した思いは「限られた予算の中でベストなパフォーマンスを」ということです。設計者は誰しもが自ら設計したものを100%実現したいと思うものです。その点で私は、工務店との家づくりに限界を感じていました。

 同じ映画を観ても、同じ本を読んでもその捉え方は十人十色です。同様に同じ図面を見ても工務店や職人により、その出来上がりのイメージはそれぞれに違っています。それが現場で自由に修正が可能であれば問題はないのですが、工務店が請負った段階でその主導権は私の手から離れてしまうのです。そして、すべての工程で工務店の意思が大なり小なり反映されてしまうのです。それは、時に良い方向に向かう場合もありますが、常に利益を上げなければならない工務店との家づくりは、私にとってストレスの多いものでした。どんなものを作りでもいろいろな意思がそこに働いてしまうということは決して良いことではありません。そこで私は昔、町の大工さんが請負っていた時のようなシンプルな家づくりにしようと考えました。それは、私、職人、施主の3者だけで作る家づくりです。当初は施主が各職人に仕事を発注し、私が管理する分離発注形式をとっていましたが、お金の管理と責任の所在が不明瞭なので、いっそ私がすべてを請負うことにしました。そうすることで設計の段階から職人と打合せをしながらすすめることが出来るので、見積りの精度が上がり、私の意思が十分に現場で反映されるようになりました。

 また、工務店と仕事をする場合、施主と工務店との利害調整をすることが我々設計士の大切な仕事であったのですが、直接職人と仕事をするようになってからはそんな気遣いは必要なくなり、職人の日当として2万5千円(人工2万円+諸経費5千円)の予算を考えておけば、私も職人も目標は、「良いものを作る」ということに集中することができるようになりました。もちろん、私自身も工務店の諸経費にあたる現場管理費をいただいています。そして、施工にかかる全てのお金を管理します。責任は重くなったのですが、以前は現場での変更なども工務店の判断を待たなければならなかったのですが、それが私の判断で瞬時にかつ自由に出来るようになりました。その場合、私の費用負担は免れないですが、それを避けるためにも設計の段階での精度が重要になるのです。また、職人にとっても現場で直接設計者の意見を聞き、即施工に反映できるということはとても効率の良いことです。このような家づくりが出来るようになるまでには10年以上かかりました。高いスキルを維持しないと設計者にとってはリスクが高く、なかなか踏み出せないやり方ですが、将来必ず私のような設計者は多く出てくると思います。だって今の建築家は、シナリオを書くだけの映画監督のようでもあり、レシピを作るだけの料理人のようでもあります。私にはそれが不思議で不自然なことに思えてなりません。

シンプルなものは、シンプルな関係の中でしか生まれません。
by unocolumn | 2009-08-05 21:52 | 設計・施工
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