以前作ったリビングチェアーは、当初家族からは不評だった。しかし、座り方を工夫したり、慣れたりして今ではそんな声も聞かれなくなった。人が違えば座り心地も違う。ましてや時とともに体型も体力も変わる。だから、万人に合う機能(座り心地)はない。機能を第一義とすれば、素材の選択肢も変わる。それでは本末転倒だ。人間工学を追究しても商品開発にしかならない。永く愛されることを第一義とすれば、素材が求める機能と形態を優先するしかない。作り手の本当の思いは、素材に託すしか伝わらないものだ。
スパニッシュチェアー(モーエンセン作)がある。この椅子は総じて座りにくい。でも、“ある” だけで幸せだ。時々座ってみる。彼とお話しした気分になる。もう家族の一員だ。